はじめに
私は、2024年にオーストラリアの言語聴覚士養成校を卒業しました。実習は日本の言語聴覚士養成校でも必須とされていることが多いですが、今回はオーストラリアでの実習経験についてご紹介したいと思います。実際にどんな実習が行われ、どのような学びがあったのか、私の体験をもとに詳しくお伝えします。
オーストラリアの言語聴覚士実習の基本概要
実習の頻度と期間
私が卒業した大学では、実習は各学期に1回、計4回ありました。2年間で通算4学期あるので、毎学期に実習が組み込まれていました。それぞれの実習は1週間に2日間、10週間から18週間程度の期間で行われました。
実習先の選定と配属
大学は地域の病院やクリニックと提携しており、実習先は大学側で決定されます。基本的には自分で希望することはできませんでした。私の場合、実習先は住んでいる場所を考慮して配属されることが多く、また4回の実習のうち最低1回は成人の実習を受けることが求められました。私は幸運にも、小児2回、成人の実習2回とバランスよく経験することができました。
実習で学ぶ領域
実習中に経験する領域は非常に幅広いです。幼児の言語発達や吃音、成人の失語症や嚥下障害など、さまざまな領域をカバーします。ただし、2年間という限られた期間の中で全ての領域を網羅することは難しく、経験できなかった領域については、授業やセミナーで培った知識で補う形になります。私の場合、幼児の言語発達、思春期の吃音、成人の失語症、成人の音声障害を実習で学びましたが、成人の嚥下障害については実習で経験することができませんでした。
実習でやること
実習中の内容は、いろいろありますが、以下が主な内容です。
アセスメント(評価)
実習では、子どもの言語発達をチェックするために、検査キットや評価シートを使ったアセスメントが行われます。また、授業や他のセラピーに参加し、クライアントがどんな場面で困っているのかを観察することもあります。
セラピーの実施
授業で学んだ理論を基に、マンツーマンのセラピーやグループセッションを実施します。セラピー前には、指導教官とセラピープランを確認し、実施内容を調整します。
保護者との連絡・相談
セッションの予約や、クライアントの発達歴の情報収集を行います。セッション終了後は、保護者にお子さんの発達状況をメールや電話で報告します。
レポート作成
各セッション後にレポートを書き、アセスメントの結果やセラピーの進捗をまとめます。
他機関への紹介状作成
必要に応じて、クライアントが他の医療機関や専門家に繋がるよう、紹介状を作成します。
実習中の1日
以下は、私が実習中に経験した1日の流れです。
7:30 | 起床 |
8:30 | 実習先にバスで向かう |
9:00 | 実習開始、クライアントの親御さんや担任の先生からのメール確認 |
9:15 | チームミーティング |
9:30 | 1限目の授業へ向かう(マンツーマンの吃音セラピー) |
10:30 | 自分のオフィスに戻り、レポートの作成 |
12:00 | ランチ |
13:00 | 指導教官から個別フィードバック |
14:00 | 4限目の授業へ向かう(少人数グループセラピー) |
15:00 | レポート作成、コーヒーブレイク |
16:00 | 指導教官からグループフィードバック、翌日の打ち合わせ |
17:00 | 解散 |
17:30 | 帰宅 |
19:00 | 夕食 |
20:00 | 授業の課題・予習 |
22:00 | 就寝 |
実習の評価方法
オーストラリアの実習では、能力ベースで評価が行われます。日本のように時間ベースではなく、実習中のパフォーマンスが重要です。例えば、病欠なく出席していても、能力が基準に達していなければ不合格となり、再実習が必要になります。能力ベースなので、定期的に行われる指導教官との個別ミーティングの前には、ドキドキしていました。しかし、教官からフィードバックを受け、自己改善を図れば問題なく合格できます。評価は、Speech Pathology Australiaが定めた基準に基づいて行われ、卒業時までに新卒の言語聴覚士に求められるレベルに達することが求められます。指導教官の先入観やえこひいきなく、客観的に評価されるのは良い点です。
実習中の楽しかったことと辛かったこと
楽しかったこと
- 実践的な内容が学べた
- 言語聴覚士としての1日の流れを体感できた
- 保護者や指導教官との会話を通して、コミュニケーション力が向上した
- 英語力が自然に養われた
- オーストラリアの教育システムを知ることができた
- オーストラリア人の同級生と仲良くなることができた
辛かったこと
- クライアントの英語が聞き取れない
- レポート作成に時間がかかる
- オーストラリア人同級生との会話についていけない(私の英語力とコミュ力の問題です…)
- 電話でのやりとりが常に緊張する
- 指導教官の前で常に評価されている気がして緊張する
最後に
最初の実習ではとても緊張し、毎回指導教官に評価されることが不安でした。しかし、実習を重ねるごとに自信がつき、最後の実習では楽しんで終えることができました。英語力やコミュニケーション力の面で苦労することも多かったのですが、実習を通じて多くのことを学び、成長できたと感じています。
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